アメリカのニューヨーク州は昨春、新型コロナの感染拡大の中心地となり、24時間で1,000人以上の死亡が確認される日もあるなど、世界最悪の水準でパンデミックが拡がりました。これまでの感染確認者数は総人口2千万人の1割以上にあたる246万人、死者は5万5000人以上に上っています。
しかし、去年12月から医療従事者のワクチン接種をいち早く開始し、4月には事前予約なしの接種開始、今年5月には観光客にも無料でワクチンを提供するなど、ワクチン接種を積極的に進めてきました。12月現在、人口の78%がワクチンを1回以上接種していると報告されています。
今年6月には経済の全面再開を宣言、新学期の9月からは学校も本格的に再開し、子どもたちの間にも日常が戻りつつある中、世界各地では、新型コロナウイルスの新たな変異株『オミクロン株』が確認され、不安を抱かれている方も多いと思われます。
今回は、9歳と6歳の子どもたちを育てながら、世界最大規模の感染拡大を経験し、コロナ禍のニューヨークを見つめてきた愛波文さん(慶應義塾大学SFC研究所健康情報コンソーシアムメンバー)に、ニューヨークの現状、学校での感染対策、日本とアメリカの対策の違いなどを伺います。
緊張感が続いた「異様な」1年を経て…
── 愛波さんはニューヨークでの世界最悪水準のパンデミックを経験されました。今振り返ってみて、どのような日々でしたか?
愛波さん:
今振り返ってみると「私、あの時どうやって生活していたのだろう?」と思うくらい、緊張感のある異様な日々でした。ニューヨークでは一時、1日で1000人以上の死者が確認され、死体安置所や葬儀所もいっぱい…死体を安置するための冷凍トレーラーが路上に置かれていました。
「外出すれば感染するかもしれない」という恐怖から、スーパーに行くことも控える日々…。どうしても外出が必要な時は、マスクをして、帽子をかぶって髪の毛を全てしまい、買い物をすませて家に入る際も、除菌をして、すぐに衣類を洗濯して、シャワーを浴びて、、とこの工程だけで5時間以上かかっていました。去年の3月から厳格なロックダウンが3ヶ月続き、その間、子どもたちの学校も閉鎖されてずっとお家にいましたから、仕事も思うように進まず疲弊していたと思います。
── 日本でも第5波の感染拡大で緊張が高まりましたが、去年春のニューヨークの緊張感はやはり相当なものがあったのですね。
愛波さん:
そうですね…感染してもベッドや呼吸器は残っていないかもしれない、、と常に考えていました。
私が住んでいる地区は医療従事者も多く「子どもたちに会えない、子どもをハグできない」という医師や看護師の友人もたくさんいたんです。そんな彼らを近くで見ていたので、私としては「医療従事者に負担をかけない、重症化して診てもらわなくてはいけない状態を作らない」ということが最優先でした。
友人たちに直接励ましの言葉をかけることは出来ませんでしたが、子どもたちとクッキーを焼いて玄関先に届けたり、食事をドネーションしたり、ということを続けていました。苦しい時でしたが、そうして周囲の人たちとの助け合いがあったことが救いでした。
── 去年春から現在にかけて、子どもたちの感染状況についてはいかがでしたか?
愛波さん:
子どもたちの感染者数は一貫して低く、陽性になったとしても重症化しないというのがニューヨークでも一般的で「それは本当によかったね」と保護者の間では話していました。
デルタ株の感染が広がり、子どもの感染者が増えましたが、重症化することは稀という状況は変わっていません。
── ロックダウン中、お子さんたちの様子はいかがでしたか?
愛波さん:
9歳と6歳の息子がいますが、子どもたちは意外と家での生活を楽しんで適応していたように見えます。お友達とズームをしたり、誕生日にはドライブスルー誕生日会を行ったり、置かれた状況の中で、最大限に子どもたちを楽しませようと親たちは必死でした。
学校再開 「自宅で昼食」などの選択も可能
── ニューヨークでは9月から本格的に学校も再開しましたね。
愛波さん:
厳格なロックダウンが解除された後も、しばらくは午前11時には帰宅するという日々が長く続いていたので、新学期が始まり、本格的に学校が再開し、本当に嬉しく思っています。
感染リスクが少ない外遊びの時間などに、短い時間ですがマスクを外して遊ぶことができる「マスクブレイク」の時間も取られるようになり、子どもたちは「今日は少しの間だけどマスクを外せたよ!」と大喜びしていました。
── 学校ではどのような感染対策がとられていますか?
愛波さん:
マスクの着用、毎朝の検温、アプリで子どもの健康状態を入力、ソーシャルディタンスの確保、ランチは天気がよい日は外で、2メートル離れて食べるなどの基本的な対策は続いています。
今年の春までは、クラスの授業も全てリモートで提供されていて、各家庭で学校に行くか、リモートで授業を受けるかを選択することができました。9月からは基本的に全員学校に行くことになっていますが、保護者の間では「オプションがあってもいいのでは?」という声も一部上がっています。
── その他に学校が提供している感染対策はありますか?
愛波さん:
食事中の飛沫感染が気になる家庭は、親が送り迎えをして自宅で昼食をとってもいいことになっています。今年の春は1クラス18人のうち、3〜4人はそのオプションを利用していました。新学期に入ってもそうした特別措置を選択することが可能です。食事中は感染リスクが高まる場面なので、こうした選択肢があるのは、とても良いことだと思います。
── 学校行事の再開状況などはいかがですか?
愛波さん:
去年は学校行事であるクリスマスコンサート、音楽祭などは全て中止、6月の卒業式も外でやっていました。今年もクリスマスコンサートは開催されません。
風邪症状が出た場合は必ずPCR検査 日米の違い
── 報道などを見て、日本の学校での対策との違いを感じますか?
愛波さん:
まずPCR検査の数が極端に少ないことに驚いています。
私の子どもたちが通っている学校はかなり厳しく、例えばアレルギー症状で鼻水や咳が出ているとしても「PCR検査を受けて、陰性の証明をもらってから通学してください」と言われるのが普通です。先日次男が鼻水を出していた時も、学校側に「PCR検査をしてきてください」と言われ、当日検査してもらえるところを探し、75ドルで検査を受けることができました。
── 子どもたちのワクチン接種も進んでいますか?
愛波さん:
はい。アメリカでは11月2日から5歳から11歳の子どもへのワクチンの接種が始まりました。ニューヨーク市の公立学校では学校に接種会場が設けられて希望する子どもたちへの接種が行われています。私の周囲では5歳以上の子どもたちも積極的に接種を受けています。
一方で日本は感染者数が減少しているので、子どもたちへの接種はどうなるのだろう?と状況の推移を見守っているところです。
…
日本の学校でも基本的な対策は徹底されていますが、愛波さんへの取材を通じ、ニューヨークの学校の対応は非常に合理的であると感じました。「一律」を求める日本とは違い、多様な選択肢があることも印象的でした。
日本では今、第5波が収束し、感染者数も減少していますが、再び増加に転じた際に懸念されるのは、ワクチン接種を受けていない子どもたちの間の感染拡大です。それを防ぐためにどの様な対策を取るべきなのか?子どもたちへのワクチン接種も含め、今から幅広い議論が必要だと言えそうです。
PRPFILE 愛波さん
日本人初 乳幼児睡眠コンサルタント。
IPHI日本代表。Sleeping Smart Japan株式会社代表取締役。慶應義塾大学教育学専攻卒業。2012年に長男出産。夜泣きや子育てに悩んだことから乳幼児の睡眠科学の勉強をはじめ、米国IPHI公認資格(国際認定資格)を日本人で初めて取得。2015年に次男を出産。現在、2人の男の子の子育てをしながら、企業やイベント講演を行うほか、子どもの睡眠に悩むママ・パパ向け睡眠・子育て・教育について配信する愛波LIVEコミュニティを運営。IPHIと提携し、オンラインで妊婦と乳幼児の睡眠コンサルタント資格取得講座の講師も務めている。著書に「ママと赤ちゃんのぐっすり本」(講談社)「マンガでよむ ぐっすり眠る赤ちゃんの寝かせ方」(主婦の友社)、監修書に「ママにいいこと大全」(主婦の友社)がある。慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム 個人会員メンバー
Home Page: https://aya-aiba.com Instagram:https://www.instagram.com/aya_aiba/
【取材・文・/ 谷岡碧 取材協力/慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム みんながヒーロープロジェクト】
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